天気予報が 今夜も当たった話

この週末は天気が不安定のようで、予報もメディアによって少しずつ異なるようです。
個人的には雨の日だろうが晴れの日だろうが、代わる代わる節度を保って訪れてくれればそれでいいやという立場なのですが、(一応酒蔵のブログなので)一般的にお酒を楽しむにはどういう天候が向いているのだろうと考えていたところ、「酒譜」(西村文則著 昭和7年刊)という本の中に「飲酒慾は晴曇関係が左右する」という章を見つけました。
(注:下記は新仮名遣い・新漢字に直しています。 「慾」は「欲」の旧字体ではなく、全く別の字なのだそうです。
「慾」 の部首は「心(こころ)」で、「欲」の部首は「欠(あくび)」。意味はどちらも基本的に 「満たされることを求める心」で同じなのでややこしいのですが、下心があるのが「慾」ということで雰囲気があるのでそのままにしています。)

酒にはそれほど寒温が影響し、また陰晴関係が酒味を変化させる。(中略)
酒そのものは、陽性であっても、この飲慾をそそる天候は、曇天、雨催い、雪空、いまにもみぞれの降りそうな時に限るようだ。もし天気がよく、室内なんぞで盃を開けるべく似つかわしからぬ日は、何人の希望も戸外に注がれるにきまっている。(中略)真の飲酒家は飲みつつ静かに考える、また静かに味わう(独り飲みにおいて)。つまり反省々慮である。飲酒家の質は酒力に依って往々に現れる。この真の現れを望むためには、四周の騒音雑音、晴天時の戸外の活動的なものの響きの禁物であるから観ても、陰天はこれが比較的少なきゆえ、飲酒デーには全くあつらえ向きの場合ということができる。

ひとりで飲む酒はいわゆる「天気が悪い」日こそ素晴らしい、ということのようで、雨降山麓の酒蔵としては我が意を得たりと言いたくなりますが、ちょっと極端な気もします。

ところで天気予報と言えば、昔はもっと外れる日が多かったと思われたことはないでしょうか?

中島みゆきの名曲「タクシードライバー」(1979年)ではこう歌われます。

  タクシードライバー 苦労人とみえて
 
 あたしの泣き顔 見て見ぬふり

 天気予報が 今夜もはずれた話と
 
 野球の話ばかり 何度も何度も 繰り返す



最近は天気予報はほとんど外れないような気がするし、野球の話ばかりする運転手さんもほとんどいらっしゃらないような気がする、、、
その懐古の感覚がまた、「タクシードライバー」の哀愁を帯びた曲調にノスタルジックな色彩を添えています。

いや本当に天気予報は昔と比べて当たるようになっているのかどうかはっきりさせたい(ドン!)ということで気象庁のHPを見てみると、あっさり下のようなグラフが見つかります。

天気予報の精度検証結果(東京地方の予報精度)
1979年当時の記録がありませんが、降水の有無だけ見ると的中率がこの30年で約5ポイント上がって80%台の後半になったというところでしょうか。昔と今で、実感よりも差が小さいような気がします。

気象庁の有するスーパーコンピュータの演算速度の推移も載っています。
つまり第Ⅲ世代(1980年頃)からX世代(2020年)の40年間でスパコンの処理能力が100,000,000,000倍(千億倍!)になっているのに的中率は5ポイントしか上がっていない、という見方もできなくはありません。予報というのはそれだけ難しい(バタフライ効果)ということと、人間(予報官)の能力がおそろしく優れているということを示すのかも。。。

さきほどのグラフに戻ると、天気の的中率は基本的に毎年向上しているのですが、2020年は少し数値が下がっているように見えます。
緊急事態宣言発令で、気象庁の予報官の皆さんが大好きな虎ノ門の屋台に行けなくて意気消沈してしまったせいだろうか、、、などとくだらないことを考えましたがもちろんそんなはずはありません。

調べてみると下記のような記事が見つかりました。

 世界的な航空便の欠航で天気予報の精度低下も 世界気象機関(NHK NEWS WEB 2020.4.7より)

世界の気象に関する国連の専門機関は、新型コロナウイルスの影響による世界的な航空便の欠航で、天気予報に利用されている民間の旅客機からのデータが大幅に減り、今後、天気予報の精度が低下する可能性があるという見解を明らかにしました。

国連の専門機関、WMO=世界気象機関の発表によりますと、世界各地の天気予報など気象に関する情報には、陸や海、宇宙からのさまざまな情報に加え、民間の旅客機に搭載された機器を通じて集まる気温や風速、風向きなども貴重なデータとして利用されているということです。

しかし、新型コロナウイルスの影響で世界的に航空便の欠航が相次いでいることを受け、旅客機からのデータをこれまでのようには得ることができなくなり、特にヨーロッパで顕著になっているということです。

WMOのターラス事務局長は、この状況が続けば「天気予報への信頼性が徐々に低下すると予想される」とし、今後、世界で航空便の欠航が長引けば、天気予報の精度が低下する可能性があるとしています。

世界の旅客機が採取する高度1万メートルの気象データ(気温・風向・風速)は月に80万件。そのデータが世界中に送られ、各国の天気予報に役立っていたそうです。旅客機が飛ばないと洋上の観測がゼロになる→南からの風がどんな空気を送ってくるのか全くわからなくなる、というわけで天気予報の偏微分方程式に入力する数値が不足すればそりゃ当たらなくもなるだろうということですね。

気象庁のHP、データを見てなぜそうなっているんだろうなどと想像を巡らせていると、あっという間に時間が過ぎ去る恐ろしいページです。

個人的には気象庁発表の天気予報の中に、信頼度(予報の確度が高い順にA,B,C)という項目があることを知ったのが収穫でした。
例えば信頼度Cは「適中率が信頼度Bよりも低い。もしくは降水の有無の予報が翌日にかわる可能性が信頼度Bよりも高い」ことを意味します。
傘持って行かなくていいよ!まあ自信はないけどな!」という人間味あふれる言葉に好感が持てますね。そんなこと言ってませんが。

天気予報がまた外れた、ああコロナのせいだねというくらいの力加減が今の時代にはむしろマッチするかもしれません。
タクシーの運転手さんも私の泣き顔を見て見ぬふりしてくれそうですし。

 

GN


映画「マグノリア」では最後に空から●●●が降ってきました。人生にはそんな日もありますよきっと。

Aimee Mann - Save Me