気象神社で気象記念日

6月1日は「気象記念日」でした。

1875年のこの日、東京・赤坂葵町(2019年に開業したThe Okura Tokyoのあたり)に、日本初の気象台「東京気象台」が設置され、気象と地震の観測が開始されたのにちなんでいます。
(1884年のやはりこの日に、日本で最初の天気予報が出されました。その予報は「全国一般風の向きは定まりなし、天気は変り易し、但し雨天勝ち」という「控えめ」なものでした。気象庁HP



The Okura Tokyo (Wikipediaより)
 

「気象記念日」にちなみ、日本唯一の気象神社(高円寺氷川神社内)では「気象祭」が例大祭(神社で毎年行われる祭祀のうち、最も重要とされるもののこと)として執り行われます。

祭に参加するのは時間帯的に難しいのですが、せっかくなので朝、蔵に向かう前にお参りに行ってきました(自宅が割合近いのです)。

今年は吉川醸造で雨降山(丹沢大山の別名)にちなんだ「雨降」という銘柄のお酒を出したこともありますし、天気の神様にはご挨拶をしておいた方がよいのでは、ついでに商売繁盛の祈願も、、、という下心を抑え切れませんでした。


もともと気象神社があるというのは知っていたのですが、訪れたのは初めてです。

上の写真の左奥に気象神社があります。
御祭神は「八意思兼命(やごころおもいかねのみこと)」と言います。
多くの人間の知恵を一同に結集させることができる「知恵の神様」です。

天照大御神が天の岩戸に隠れて世の中が暗闇になった時、岩戸を開けて外界に戻す知恵を考え出したのが、八意思兼命。

再び世界に「太陽」を取り戻し、世の中を救いました。このことから「気象の神様」として祀られるようになったと言われています。

また、八意思兼命はその名の通り『晴』『曇』『雨』『雪』『雷』『風』『霜』『霧』という八つの気象条件を司るとされています。
アニメの主人公、いやボスキャラのような全能感がパないですね。


気象神社は1944年、大日本帝国陸軍の気象部の構内に造営されました。軍にとって気象条件は戦略、作戦を講じるのに大事な要素であったため、科学的根拠に基づいた予報がされていましたが、予報的中を祈願するなど、気象観測員の心のよりどころとされていたそうです。これもいかにも日本らしい話だと思います。


気象神社のホームページのことばがとてもいいので紹介させてください。 

 

日本唯一の気象神社

天気はすべての人に、毎日平等にやってきます。
地球上で天気に関係のない人は、一人もいません。
だから、日本で唯一の気象神社は、
日本で一番身近な神社でありたいと思っています。
天気を祈ることは、一日を大切に想うこと。
みなさまの心も、晴れわたりますように。

 

 

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ここで終わると「いい感じのブログ」になってしまうので(別にいいのですが)、ちょっとお酒に関わる話をすると、前述のとおり(前述してないかもしれませんが)お酒と神社の関わりは深いのです。
吉川醸造でも例えば節分祭の日だけで「大山阿夫利神社」「三之宮比々多神社」「平塚八幡宮」をハシゴしています。

「神様のハシゴ」というと何となく失礼なのでは、そんな礼儀知らずにはバチも当たるのではと当日ちょっとドキドキしたのですが、もちろん日本の神様はそんな心の狭い方々であるはずもなく、色々調べると全国各地の神社にお参りに行くのはむしろ推奨されることのようです。
もちろん、ご利益を求めてというよりは自らの感謝の気持ちで参るべし、というのが基本的に求められる姿勢なのですが。


TPOに合わせて全国の神社に思いを寄せる、この感覚がちょっと似ているかなと思ったのが、日本酒における「米」の位置づけです。

日本酒というのは、蔵の所在地に関わらず、全国各地の酒造好適米を使って造ることが多いのです。
吉川醸造でも今年は、兵庫県産山田錦、岡山県産雄町、長野県産美山錦、神奈川県産若水、、と数種類のお米を、それぞれの商品の酒質設計に応じて使い分けました。

「今年のこの産地のこの米はこの酵母と水の相性が今一つだったから、来年はあの米とあの酵母を組み合わせてみようかな、、、」などと考えるのが杜氏の楽しみの一つでもあるようです。

ワインの場合はテロワール( 畑の気候や地勢また土壌の個性、産地の伝統的な特徴や土地柄)が重要視されるので、ワイナリーが遠方からぶどうを運んでくるという発想は基本的にありません。

そのイメージがあるので「日本酒にはテロワールがないじゃないか」と言われたりもしますが、もちろん例外もあり、例えば神奈川県海老名市の「泉橋酒造」様は地域と連携して酒米を自家栽培されている「栽培醸造蔵」です。

一方で前述したように(今度は前述しました)、全国の色々な米を試せることの面白さ・自由さもありますので、どちらのやり方も受容する日本酒の多様性と包括性の高さを示しているのではなかろうかと個人的には思っている次第です。



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話を気象神社に戻すと、思っていたよりもこぢんまりとした、かわいらしい社殿です。
前日の夜は雷雨だったので、周囲の緑が瑞々しく映えています。

出勤中だと思しきスーツ姿の方が次々に手を合わせて行きますが、特に今日が「気象祭だから」という様子ではありません。まだ祭の準備も始まっていませんので、もしかすると今日が気象祭であると気づかぬまま日常のお参りをされる方もいらしたかもしれません。

「こんな都会の真ん中で」「旧き良き日本の文化が」「脈々と息づいていた」「全米が泣いた」

まさに常套句の羅列がふさわしい、そんな風景。


あたりにはおびただしい数のテルテル坊主(照々みくじ)や絵馬(下駄絵馬:今気づきましたが「あした天気になあれ」の占いから来ているんですね。ここ数年やっていなかったので気づきませんでした)が風に揺れていました。

「明日のゴルフが晴れますように」「結婚式の前撮りが晴れますように」といった、切実にも、のどかにも思える祈願が書かれたものが多いのですが、中には「また雨が降って、●●に逢えますように」という、ロマンチックな情景が目に浮かぶものもあります(ロマンチックなストーカーかもしれません)。

概して「晴れますように」という祈願が多いので、「雨降」の人としてはバランスを取る必要があろうと考えました。

晴ればかりの世界ではなく、雨が「ときどき」「災害がおきない範囲で」「日常の休符」のように降ってくれる世界に住みたいと思うのです。
気象神社 高円寺


余談ですが、「普通の雨」が降るのは決して当たり前のことではありません。特に地球外では。

金星では硫酸の雨が降りますし、タイタン(土星最大の衛星)では油の雨が降ります。さらに「HD131399Ab」という惑星では鉄の雨が降り、天王星と海王星では何とダイヤモンドの雨が降ります。
いずれもちょっと見てみたい気はしますが、そんな世界にはとても住んでいられませんね。

「比較的純度の高いH2Oが、ランダムな間隔、一定の強度と密度を保ったうえで日常の休符のごとく涼やかに降り注ぎますように」

 

「天王星に行ってみたい(海王星でもいいです)」

などと絵馬に書いて目立とうと思ったのですが、まだ売場が開いておらず買えませんでした。

…珍しく余談が短く済んでよかったです。


日中、仕事をしながら「娘の歓心を買うにはテルテルみくじ金五百円也を買うべきであった」と思い出し、蔵からの帰りに再び神社に寄りました。

門が閉まっていました。

どんなときも前向きに行きましょう。


GN


R.I.P.   B.J.トーマス

雨に濡れても - B.J.トーマス