酒に酔はぬ法

最近、醸造学者として名高い住江金之(すみのえ・きんし)博士の「酒」という本を読んでいます。昭和5年の刊行ですから旧仮名遣いで難しいところもあるのですが、それ以上に酒や酒造に関する興味深い話がたくさん出て来て飽きさせません。

 

醸造技術に関する学術的な話はもとより、「酒」の異名を200以上もずらりと並べてみたり(「般若湯」「百薬長」しか知りませんでした。それにしても「狂米」って。。。)、さながら古今の酒類全般に関する百科事典の趣があります。

 

刊行当時の世俗も生き生きと描写されています。昭和5年(1930年)と言えばちょうどアメリカでの禁酒法時代(Prohibition Era)。施行当日、市民がパニック状態に陥る様子の、何とも臨場感あふれる筆致です。

 

何しろ当日は十二時がうつたらもう飲めないといふので、酒場といふ酒場は割れる様な騒ぎ、夜になると此時間を厳守させる為に、各酒場には巡査が派遣される。十二時近くなると今の中に買ひ込んで置かうといふ連中は、酒場のスタンドの前に黒山の様にたかる。めいめい五弗十弗の紙幣を差上げて、俺に呉れろとどなる。 (中略 混乱の描写が続きます)

儲かつたのは酒場である。馬鹿を見たのは飲み手で、正直に翌日からは酒が手に入らないと思つて、高い金を出して無理に買ひためたが、さて翌日になると、何処からどうして来るか、矢つ張り酒はある。これにはあいた口が塞がらなかつたといふ。(実際は旧字体)

 

 

当時流行していた酒がリキュールやカクテル。歌謡曲「東京行進曲」(昭和4年発表なのでまさに「酒」刊行時には街中で流れていたのでしょう)の歌詞に合わせてノリノリ(死語?)の筆致です。

 

「リキユールとコクテール」

♪恋しい銀座の柳、あだな年増を誰か知る。ジヤズで踊つてリキユールで更けて、明けりやダンサーの涙雨。(東京行進曲)

 

名高い銀座の柳はなくなつたが、カフエーは益々盛。出会つたテーブルで、一杯のコクテール、二杯目のリキユールでは、たちまち恋の取引成立、オーライてな事で、腕を組んだモボとモガ、それには不良老年、ステツキガール、マネキンガール、キツスガール等々々、商売往来にない新職業婦人も混つて、ペーブメントは肩摩轂撃。時は千九百三十年、テンポの時代だ。オイ円タク。ヘエ承知の助。△△ホテルへ。忽ちブーブー。

執筆時にちょっと酔っていらっしゃったのではと思えなくもありません。

東京行進曲と言えば4番の歌詞「いっそ小田急(おだきゅ)で逃げましょか」という歌詞から「小田急(おだきゅ)る」という言葉が当時流行ったものの、それに小田急電鉄の重役が激怒して、、とかいう逸話に溢れていて面白いのですがそれはまた別の機会に譲るとして。

 

個人的に興味を掻き立てられたのは「酒および船に酔はぬ法」。そんな、どちらにも弱い私にとって画期的な方法が昭和初期にはあったのかと読み進めてみると、、

酒席に出る時、酔はない秘訣といふに色々ある。最も信ずるに足る一法は、干し柿を臍(へそ)に張つて置くと、連日飲んでも酔はないといふ事である。

 

素晴らしい早速試してみ。。。

 

当時の先端科学的知見も盛り込まれている本ですので、こういうギャップが楽しいのです。

コクテール(カクテル)のレシピもいずれご紹介しますね。

 

GN

 

 

Kevin McGloughlinによる白昼の酩酊感。

Max Cooper - Repetition