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陰翳礼讃、あるいは、いいAIさん

奥行きが深いため扉を開けていても電灯を点けなければ昼でも真っ暗な蔵のなかを歩いていてふと思い出し、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」を何十年かぶりに読み返しました。昔は建築やデザインを学ぶ学生にとっての必読書でしたが今はどうなのでしょう。

 

【陰翳礼賛について】
まだ電灯がなかった時代の今日と違った日本の美の感覚、生活と自然とが一体化し、真に風雅の骨髄を知っていた日本人の芸術的な感性について論じたもの。谷崎の代表的評論作品で、関西に移住した谷崎が日本の古典回帰に目覚めた時期の随筆である。
西洋の文化では可能な限り部屋の隅々まで明るくし、陰翳を消す事に執着したが、いにしえの日本ではむしろ陰翳を認め、それを利用することで陰翳の中でこそ映える芸術を作り上げたのであり、それこそが日本古来の美意識・美学の特徴だと主張する。(Wikipediaより)


全編を通じて、薄暗い日本家屋の「幽玄の美」に対する称賛が続き、厠(かわや)、いわゆるトイレについても実に優雅な筆致です。

 私は、京都や奈良の寺院へ行って、昔風の、うすぐらい、そうしてしかも掃除の行き届いた厠へ案内される毎に、つく/″\日本建築の有難みを感じる。茶の間もいゝにはいゝけれども、日本の厠は実に精神が安まるように出来ている。それらは必ず母屋から離れて、青葉の匂や苔の匂のして来るような植え込みの蔭に設けてあり、廊下を伝わって行くのであるが、そのうすぐらい光線の中にうずくまって、ほんのり明るい障子の反射を受けながら瞑想に耽り、または窓外の庭のけしきを眺める気持は、何とも云えない。漱石先生は毎朝便通に行かれることを一つの楽しみに数えられ、それは寧ろ生理的快感であると云われたそうだが、その快感を味わう上にも、閑寂な壁と、清楚な木目に囲まれて、眼に青空や青葉の色を見ることの出来る日本の厠ほど、恰好な場所はあるまい。そうしてそれには、繰り返して云うが、或る程度の薄暗さと、徹底的に清潔であることと、蚊の呻うなりさえ耳につくような静かさとが、必須の条件なのである。私はそう云う厠にあって、しと/\と降る雨の音を聴くのを好む。

字面を追うだけで陶然とするような文章ですね。
「ウォンバットは四角いウンチをする」という知識を仕入れては喜んでいるような誰かさんとはさすがに違います。

いつか自分もいい具合に枯れた老人になれば、大谷崎のような境地に至ることができるのだろうか、いや別になる必要はないのだがと思いながら、どうも嫌な予感がしたので執筆年を確認すると予感は的中、谷崎が「陰翳礼賛」を書いたのは今の私と同じ歳でした。ウォンバットを気にかけている場合ではありません。

で、百年前の老人は二百年前の時代を慕い、二百年前の老人は三百年前の時代を慕い、いつの時代にも現状に満足することはない訳だが、別して最近は文化の歩みが急激である上に、我が国はまた特殊な事情があるので、維新以来の変遷はそれ以前の三百年五百年にも当るであろう。などという私が、やはり老人の口真似をする年配になったのがおかしいが、しかし現代の文化設備が専ら若い者に媚びてだん/\老人に不親切な時代を作りつゝあることは確かなように思われる。早い話が、街頭の十字路を号令で横切るようになっては、もう老人は安心して町へ出ることが出来ない。自動車で乗り廻せる身分の者はいゝけれども、私などでも、たまに大阪へ出ると、此方側から向う側へ渡るのに渾身の神経を緊張させる。ゴーストップの信号にしてからが、辻の真ん中にあるのは見よいが、思いがけない横っちょの空に青や赤の電燈が明滅するのは、中々に見つけ出しにくいし、広い辻だと、側面の信号を正面の信号と見違えたりする。

…いや確か自分も、現代の文化に神経を緊張させられたことが最近あったような気がして思い返してみるに、それは先週、某巨大SNSサービスの管理者アカウントが仕事上必要になり、それを取得する際に起こったのでした。

おそらく間違ったパスワードを頑迷に連打してしまったので、某サービスのAIに「あなたはロボットです」と判定されたのだと思いますが、あっさり個人アカウント停止されてしまいました。

アカウントを取り戻すために、運転免許証の写しだの自撮り動画をつくれ右を向け左を向け上を向くなだのと次々に求められ、思わずこのAI風情が!と毒づきそうになりましたが、いやいやどこで見られているか分からないぞと考え直し、どちらかというとアメリカナイズされているに違いないAIに嫌われないよう口角を上げて友好をアピールしながらの自撮りデータを喜んで献上しました。

「あなたの情報を受領しました」という身もフタもないメッセージに、もう少し侘び寂び(わびさび)を感じられる表現にした方がいいのではとも感じましたが、いずれにしても現代のAIさん(敬称略不可)は「陰翳礼賛」で目の敵にされた、明るすぎて隠れどころのない照明器具のようなものかもしれません。

(追記)
AIさんで侘び寂びを感じられるものを探したところ、期間限定とのことでしたが、俳句と並び日本文学の侘び寂びの最たるものである「短歌」をAIさんが生成してくれるものがありました。

恋するAI歌人

試しに「酒蔵の」と入れると。。。 

「葬列」というのが侘び寂びですね(ですか?)。

GN

 

 暗さをたたえる。

Thom Yorke - Last I Heard (…He Was Circling The Drain)