ク(ー)ラ(ー)マスター・キッカワ

「雨降 純米吟醸」が、フェミナリーズ世界ワインコンクールに続き、フランス・パリにて行われた「Kura Master 日本酒コンクール 2021」において金賞を受賞しました!

多くのお祝いのメッセージをいただいており、たいへん感謝しております。

審査委員長Xavier Thuizat(グザビエ・チュイザ)氏による全体講評。「今年の受賞酒を見ると、旨味がたっぷり、複雑で余韻が長く、個性がしっかりした日本酒がたくさん集まりました。ピュアでエレガントというよりは、陰影があり肉付けもある、よりガストロノミーのシーンに対応できる日本酒が選出されました」

陰影があり肉付けもある日本酒。いい表現ですね。

ガストロノミー(仏: gastronomie)とは
食事・料理と文化の関係を考察すること。「料理を中心として、様々な文化的要素で構成される総合的学問体系と言うことができ、美術や社会科学、さらにはヒトの消化器系の点から自然科学にも関連がある。(Wikipediaより)



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オリンピックの開会式が今終わりました。個人的に何だか「行く年来る年」のようだと感じたのは、終了時間のせいばかりではなさそうです。

コロナだけでなく色々あったオリンピック前の事ごと。最後に聖火が灯されたときにその煩悩や邪気が払われて、浄化されたような気すらしました。

ゴーンという鐘が鳴らないので我に返りましたが、観客の声援が聞こえない、「静かな五輪」として末永く人々の記憶に残ることになるかもしれません。


その聖火台のデザインは、富士山の上の太陽をイメージしたそうです。

日本のシンボル富士山の上に天体という構図ですが、先日吉川のInstagramに「聖火ですか?」と題してアップしたこの写真も、蔵のシンボルである煙突の上に天体ですからだいたい同じようなものです。だいたいです。

蔵の空を見上げてたまたま上弦の月が煙突の上に見えたので写真を撮ったのですが、「静かな五輪」には太陽よりも静謐な月の方が似合うかもしれません。煙突の上の月

煙突がほとんどの酒蔵にあるのは、昔は酒米を蒸したり火入れをしたりするための燃料として石炭(あるいは木炭)を使っていたため、燃焼時に大量に発生する煙を排出するのに必要だったからです。


煙突が高いのにももちろん理由があり、これは「煙突効果」と呼ばれるものを利用して、煙や熱を効率的に外部に排出しているのです。
(現在では石炭ではなくバーナーで加熱をしているので、煙突の先から煙がもくもくということにはなりません。連続蒸米機を採用している蔵も多く、煙突の機能的な意味はそれほど大きいものではありません)


煙突効果とは。(ガストロノミーのシーンに対応できる日本酒をつくるための第一歩をここに踏み出しました

煙突効果(えんとつこうか、英: stack effect)とは、煙突の中に外気より高温の空気があるときに、高温の空気は低温の空気より密度が低いため煙突内の空気に浮力が生じる結果、煙突下部の空気取り入れ口から外部の冷たい空気を煙突に引き入れながら暖かい空気が上昇する現象をいう。

煙突効果なるほど。

煙突効果は、充分な重力が作用している場において、以下の3段階で説明される。

1. 空気の密度は、温度が高いほど低くなる。煙突内は外部より高温のため、外部より空気の密度が低下するため浮力が生じる。

2. この浮力により煙突下部で ΔP の圧力差が生じる。

3. この圧力差により、煙突下部の空気取り入れ口から毎秒 Q の冷たい空気が給気され、同時に暖かい空気は煙突内を上昇して排気される。(以上Wikipediaより)


建築(主に高層建築)の設計者は煙突効果について熟知しています。こんな図式をよく描きます。

 確かに建物の中にたまった熱を、電力等を使わずに効率的に排出できるので省エネにはなるのですが、これによってもたらされる「ドラフト現象」は綿密に検証しなければなりません(冬期にエレベーターに乗ろうとするとビュウウウと激しい気流を感じた経験がおありかもしれません。これがドラフトで、対策が不十分だととんでもない強風になります)。

また煙突効果による、火災の際の上層階への延焼速度の著しい上昇も過小評価できません。映画「タワーリング・インフェルノ」では超高層ビルがあっという間に炎に包まれましたが、あれも決して誇張とは言えず、似たような火災事故は現実に起こっています。

ということで煙突効果の強度をよく知っていますから、これを日常生活に役立てないものか?具体的には「煙突効果を利用して、この夏を涼しく快適に過ごすには?」というテーマを考えました。
このブログもたまには「お役立ちブログ」などと呼ばれてみたいという、ささやかな承認欲求の発露です。


まず「快適」とは何かを定義します。

衣服内気候と快適域の関連(東洋紡のHPより)

人間が裸でいて快適と感じるのは気温が28℃~32℃の時といわれている。衣服内気候が快適であると感じる温度・湿度・気流の範囲は、それほど広くありません。

温度32±1℃

湿度50±10%RH

気流25±15cm/sec

見過ごされがちだが大事なのが皮膚で感じる「気流」だそうですから、この気流を生み出す身の回りの環境とはどんなものか、検証してみましょう。

煙突効果の公式は

Q : 煙突効果による給気速度, [m3・s-1]
A : 煙突の断面積, [m2]
C : 流量係数 (通常0.65 - 0.7)
g : 重力加速度 [9.80665 m・s-2]
h : 煙突の高さ, [m]
To : 外気の絶対温度, [K]
Ti : 煙突内平均温度, [K]


外気の絶対温度は(オリンピックを意識して)8月の東京の最高気温の平均値31℃とします。つまり絶対温度は273+31=304K。また煙突内の平均温度は人間の体温と考えて273+36=309K。

あとは人間の水平断面を直径400mmの円と仮定したりと諸々の数値を入れてみると。。。

結果的に高さ3.3m、直径800mmほどの煙突状のものを身にまとうことで最適な気流速度25cm/sが発生することがわかりました。
煙突内の平均温度を上げ、気流速度を上げるためには黒色が適しているはずなので、それも勘案します。

この夏、もっとも涼しくて快適なファッションはこのような感じになります。

自転車でブルーインパルスを見に行っただけで、密にはならないようにしていますのでご容赦ください。

「実際には煙突内(衣服と体の空隙)の温度はもっと上がるだろう」とか「このおかしな絵柄を描いてみたかっただけだろう」とか「円筒の影を描かないのは手抜きだろう」とお考えの皆様、たいへん鋭いです。グウの音も出ません。

ただ煙突効果を意識すると涼しいというのは本当ですので信用していただいても結構です。公式を見ると、気流は高さに比例して強くなるということから、ベルトなどで煙突の高さを途中で切ってしまうともったいない(涼しくない)ことがわかります。

結論として、女性はゆったりとしたワンピースなどを着るのがベストです。男性はゆったりとしたワンピースで出歩くのに抵抗がある方も中にはいらっしゃると思いますので、シャツインでは着ないとかベルトを締めるのでなくサスペンダーにするとか。
とにかくタッパのある筒状に近い衣服を着用することが快適性(涼しさ)に繋がります。また熱の出口である首周りをネクタイで絞めるのは、煙突効果を自ら消しているようなものですから是非ご再考ください。


ガストロノミーのシーンに対応すべく、自然科学を追求するはずが普通の生活の知恵みたいになってしまいました。

しかし図らずもKURA MASTER→COOLER MASTER(「冷却の支配者」) の駄洒落を今思いつきましたのでその旨記録しておきます。

COOLER MASTER(企業名)とは。。。
コンピューターをはじめ産業・通信機器の、その名の通り放熱・冷却に関する製品の世界的なメーカー。 その製品はヒートシンクからファン、ケース、ダクトなど多岐にわたり、古くから多くのPCユーザーに愛用されている。

cooler master

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煙突に関するおまけ

現在でも国内の多くの蔵では煙突を蔵のシンボル・ランドマークとして残しているのですが、煙突自体にノスタルジーやファンタジーのようなものを感じさせるものがあるのかもしれませんね。小説や芸術作品にもモチーフとしてよく登場します。

夢野久作の「けむりを吐かぬ煙突」が「百年文庫『黒』」に収録されていました。
夢野久作 けむりを吐かぬ煙突

外はスゴイ月夜であった。玄関の正反対側から突出ている煙突の上で月がグングンと西に流れていた。

私はズット前から、この煙突の正体を怪しんでいた。……というのは、この煙突が出来てから、一(ひと)冬越した翌年の春になっても、煙を吐いた形跡がなかったからであった。


GN


今の煙突はすすが出ることがないので、内部の掃除は不要です。

Mary Poppins - Chim Chim Cher-ee