山珍居

久しぶりに西新宿の「山珍居」へ(食レポ風)。
周辺の建物はこの10年でかなり建て替わっているのですが、山珍居だけはいい意味で時間が止まっているような気がします。西新宿の台湾料理店である山珍居へ

都内最古の台湾料理屋さんだそうです。
名物の魯肉飯(ルーローハン。 台湾式肉そぼろ煮込み丼)。いついただいてもほっとする、やさしい味です。やさしい味のルーローハンが美味しい


実はこのお店、SF小説好きにとっては聖地とも言える場所です。 今から60年前にこの店で『日本SF作家クラブ』が発足したと、クラブの公式サイト(https://sfwj.jp/about/)にもしっかり書かれています。

 

そうそうたる著名人のサイン色紙が並んでいます。
子供の頃、私は特に星新一を好んで読んでいました。「SF御三家」の一人で、ショートショートで有名ですね。
(ちなみに、私がブログなどで「エヌ常務」などと書いているのはモロに氏の影響です)

星新一のWikipediaには「山珍居」のこともしっかり出ています。

写真は公式サイト(https://hoshishinichi.com/)より星新一の公式サイトから引用


星新一が日本酒に縁の深い人物であったことを最近になって知りました。東大の大学院に進学し、このブログでも何度か触れている 「酒の博士」坂口謹一郎のもとで農芸化学を研究しました。
修士論文は「アスペルギルス属のカビの液内培養によるアミラーゼ生産に関する研究」(アスペルギルスはコウジカビのこと)。

その割にはというべきか、星新一のショートショートにお酒は頻繁に出て来るものの、「エヌ氏はバーで酒を飲んでいた」というような、記号的というか状況説明的な表現にとどまるものがほとんどです。これは通俗性を出来る限り排除するため、具体的な地名・人名といった固有名詞を出さないという星の作風によるものと考えるのが自然でしょう。


そんな中で異彩を放つのが「乾燥時代」という作品。酒が禁じられた時代を描いたお話です。
一部を抜粋すると、

何もかも手に入るこの時代で、酒だけは禁止されていた。機械があらゆる分野にひろがっている時、酒の酔いによるちょっとした狂いも、大きな事故と損害をひきおこす恐れがあったのだ。
理性と機械とが支配する時代。

「働きざかりの者に禁止するのならわかる。しかし、隠居した老人にならかまわないと思うが」
老人は安楽椅子を揺らせながら、不満そうにつぶやいた。

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老人は椅子に腰をおろし、主人が壁の蛇口から注いできたグラスの酒を少しずつ飲みながら言った。
「なあ、ご主人」
「なんでございますか」
「あなたも変った仕事をはじめたものだね。こんな危険な商売などやりそうな人には見えないが」
「はい。私は酒を売っていると思ってはおりません。乾燥した社会に水をまいているつもりです。もちろん秩序を乱してまでもうけるつもりはありません。そのため、若い人や、機械の操作に直接従事している人は店にはお迎えいたしません。ですから、良心の呵責も感じませんよ」

ーーーーーー

老人はもう一杯をたのみ、グラスのなかの液体に、過去の幻でも見つけだそうとするかのように、じっとのぞきこんだ。そして、目をつぶって匂いをかぎ、口に入れた。舌の上で撫でているようなようすだった。

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老人は出された酔いをさます薬を飲んだ。酔いはさめていったが、頭に残った光景は消えなかった。これから、夜に目がさめた時には、何時も思い出してしまうことだろう。
酔いはすっかりさめた。老人は開けてもらったドアから外へ出た。そして、水の流れていないビルの谷間をひとりで歩き、機械と装置の林のなか、テープの鳴声の待つ部屋に帰った。


ややメランコリックな情感あふれる筆致で、星新一のお酒へのまなざしがうかがえる作品です。
しかしいったいどこから、どうやってお酒を?
実はお酒を●●から送っていたのです!



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食べ物やの飲み物の味を、時空を超えて再現できないだろうか。
そんな研究をしている研究室があります。

https://www.asahi.com/asagakuplus/article/asachuko/10825045

(朝日中高生新聞2021年10月31日号)より

 

味を瞬時に遠方に届ける技術を

岐阜県で作ったみそ汁の塩味を、250キロ以上離れた東京都にリアルタイムで伝達する――。
宮下教授と研究室に所属する大学院生の小林未侑さんは8月、こんな実験を行いました。


そもそも塩味は、塩が水に溶けてできるナトリウムイオンが舌に触れ、刺激することで感じます。
逆にイオンが舌に触れないようにできれば、塩分を調整しなくても塩味を感じにくくなります。

TeleSaltyは「電気味覚」という技術でナトリウムイオンを「操作」します。食べ物と体に電気を流すと、イオンを舌から離したり、くっつけたりできます。
電流が強いほど、その効果は強くなります。この原理をうまく使って、味の感じ方を変えます。さらに、遠距離にある食べ物の塩味を通信できる機能も加えました。

実験では東京にいる小林さんの腕にケーブルを接続。ストローで吸う塩水にも金属の電極をセットし、電気が流れる回路を設けました。
塩味センサーで岐阜にあるみそ汁の塩分を計測して、データを東京に伝達。電気味覚により、塩水でみそ汁と同じ塩味が再現できました。みそ汁に水を足せば、東京の塩水も即座に薄味に。センサーを抜くと無味になりました。


ちなみに今年のノーベル医学生理学賞には、触覚の受容体に関する研究が選ばれました。これで人が持つ五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)のうち、ノーベル賞の受賞対象となっていないのは味覚だけとなりました。
宮下教授は「味覚も解明が進んでるので間もなくでしょう。その先の応用を推進したいですね」と話します。



うう、面白いですね!
食べ物や飲み物を摂取するときの「感覚」を完璧に伝送するには、味覚だけでなく嗅覚(香り)、視覚(見た目)、触覚(舌触り)なども絡んでくると思いますので、それぞれ定量化できたとしても膨大なデータ量になり、通信インフラが耐えられないのではないか…?とこれは素人考えですが。星新一のショートショートは傑作です


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再び山珍居。食べ終わったので席を立とうとしたところ、隣のテーブルから「やさしい味だね」「ほっとするね」という会話が聞こえてきました。

私の味覚が時間を超えて(20分ほど未来へ)伝送されたのかもしれません。山珍居の店頭には面白い品物がたくさんあります


GN



シンプルだけど誰も思いつかなかった。MVの名作です。

The Chemical Brothers - Star Guitar