雨降 純米大吟醸 成(NARI)が、フランスで開催されたKura Master 2022 最高賞のプラチナを受賞しました!
同時に雨降・山廃・山田錦が金賞を受賞!
「成」については瓶詰めが終わり、これからラベルを貼って、、というところです。審査員ならびに関係者の皆様どうもお疲れ様でした。
昨年の「成」と違うのは、精米歩合35%からさらに磨いて30%に。
酵母は1701号から、より華やかできれいな香りを醸し出す最新の1901号に。
そして、伝統の蓋麹(ふたこうじ)法の復活。
水野杜氏と蔵人達が、最高の技術と愛情を注ぎ込んでできたお酒です。
ぜひご賞味ください。
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賞とは関係なく、今期ちょっと変わったお米を使って「研究醸造(©土田酒造)」をしてみようと考えています。
吉川醸造のある神戸(ごうど)地区にほど近い日向(ひなた)地区の田中ファームさん(https://www.instagram.com/isehara.hinata.tanakafarm/)で、このお米を少しだけ育てていただくことになりました。
雨降りの神が鎮座する大山地区と隣合わせに日向地区があるというのも意味ありげな位置関係です。その神への入口が、神戸なのだとか。
田中さんは吉川醸造の頭(かしら。蔵人を統べる杜氏の補佐役のこと)Nと旧知の仲だということが判明し、今回の話となりました。
最初は一人で来ようかと思っていたのですが、私がシャイであることを心配して頭Nが着いてきてくれました。蔵で仕事をしていたので「雨降」シャツのままです。
植えていただくのはいわゆる古代米です。
古代米については今年度、平塚のガヤマファームさんで作られたものを「おはなさけ」に使わせていただきました。部分的な使用でほのかに着色するだけでなく、味わいとしてもアクセントが付き、さらにポリフェノールや鉄分などが豊富に含まれるので可能性を感じています。
籾(もみ)の状態では色は大して現代のお米と変わりはありませんが、籾擦りした後の玄米の状態ではかなり濃い色が着いています。
ガヤマファームさんのとは少し違う品種の「紫福糯(糯米)」です。糯(もち)とは、イネやオオムギなどの作物でアミロースを全くあるいはほとんど含まない品種」のこと。
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完全無農薬・無化学肥料農法です。
プール育苗という方法で40日かけてゆっくり育てられた苗です。1箱60g(通常の慣行栽培だと160g)と薄蒔きにして、ガッチリ太い4.5葉の成苗にしてから水田に植えるのだそうです。よく見ると葉の先端の色が一部濃いのも特徴です。
周囲の苗↓とは見た目が全く異なります。
雑草となるヒエ(稗)を駆逐するために深水管理をするのだそうです。ヒエは発芽後は酸素を求めて空気中に出ようと葉を伸ばしますが、水が深いと徒長(葉や茎がひょろひょろに伸びた状態)し、空気中に葉を伸ばす前に浮いてしまいます。
そのために畔(あぜ)を高く取っているのだそうで、水田まわりにはそのような工夫が各所に凝らされています。
稲のそよぐ水田は日本の原風景として想起される自然物でありながら、同時にきわめて高度な人工物であると言われるゆえんです。
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私も兼業農家の生まれなので子供の頃は田植えや稲刈りを手伝っていたものですが、作業を間近で見るのも本当に久しぶりなのでわくわくしてきます。
田中さんが田植え機でさくさくと苗を植え始めました。
ここで。。。
G「Nさん、ちょっとやらせてもらいましょうよ。オレ写真撮るから」
N「…」
いつものように快く引き受けてくれました。
田中さんにも承諾を得て、操作を教わりながら植えていきます。
さすがは頭N、蔵でいつも高級FL車を乗り回しているだけあって、見事なハンドルさばきです。
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頭Nが田植えをしているのを見ながら、夏目漱石のある逸話を思い出しました。
漱石が水田を見て「何のために草を水の中に植えているのか?」と人に尋ねたというのです。漱石の子供っぽく浮世離れしたところを表しただけで、さすがに作り話か誇張した話だろうと思っていたのですが、概ね事実だったようです。
漱石の同級生だった正岡子規が「晒し上げ」していました。
余は漱石と二人田圃を散歩して早稲田から関口の方へ往たが大方六月頃の事であつたろう。そこらの水田に植ゑられたばかりの苗がそよいで居るのは誠に善い心持であつた。
この時余が驚いたことは、漱石は、我々が平生喰ふ所の米はこの苗の実である事を知らなかったといふ事である。都人士の菽麦(しゅくばく)を弁ぜらる事は往々この類である。
もし都の人が一匹の人間にならうといふのはどうしても一度は鄙住居(ひなずまい)をせねばならぬ。(正岡子規『墨汁一滴』より)
「菽麦を弁ぜず」というのは「豆と麦との区別もできない。 まことに愚かで、物事の区別がつかないことのたとえ」ですから、意訳「漱石って都会っ子だよね(笑)ちゃんとした人間になりたいなら、一度は田舎暮らしもしてみないとダメだよ(爆笑)」とかなり辛辣にイジっています。
さらに後日談もあって、今度は漱石の門下生だった芥川龍之介が以下のように書いています。
正岡子規が「墨汁一滴」だか何かに、先生と一緒に早稲田あたりの田圃を散歩してゐた時、漱石が稲を知らないで驚いたと云ふことを書いてゐる。さうして先生とその話が出たことがあつた。さうしたら先生が言ふのには、いや俺は、米は田圃に植ゑるものから出來ることは知つて居る、田圃に植つて居るものが稲であると云ふことも知つて居る、唯、稲――目前にある稲と米との結合が分らなかつただけだ。正岡はそこまで論理的に考へなかつたんだと、威張つて居られた。(芥川龍之介『夏目先生』より)
漱石が言い訳している様が描かれていますが、あまり言い訳にもなっていないような。。。
我が国を代表する文豪が、同級生にも弟子にもこのようにイジられるキャラだったということに、勝手な親近感がわきます。
しかし確かに、この「草」がほかほかの白いご飯になったり、芳醇な味わいの日本酒に変貌したりするというのは、考えてみれば驚異ですね。
稲の成長過程や秋の収穫が今から楽しみです。
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田植えのあと、山路を登りながら「とかくに人の世は住みにくい」などと考えていると。。。
サルが。
枝をゆすってこちらを威嚇してきます。かなりのアグレッシブ・モンキーです。
カメラのレンズ越しに目が合ったのがわかります。いったん目があった場合は決してこちらから逸らしてはいけません。
ヤギが。採食量調査中だそうです。食べ物に囲まれて幸せに違いない。
近くにある「ひなたマルシェ(https://www.instagram.com/hinata.marche/)」で田中さんに「やぎさん焼き」をおごっていただきました。
う、うまい。いい顔です。頭Nにこの画像を送って、本当に掲載していいかどうか(コンプライアンス上)尋ねたところ、「問題ない。自分としてはイジられた方がうれしい」と返信が来ました。
さすが頭。イジられてなお泰然としている夏目漱石のような人です。田中さん、頭N、結局お昼休み時間に入ってしまいましたがどうもありがとうございました!
GN
昨年の受賞時はCooler Masterの駄洒落でした。
サンボマスター - はじまっていく たかまっていく -short version-