今晩は「中秋の名月」。
ああ、秋が来た
眼に琺瑯(ほうろう)の涙沁(し)む。
ああ、秋が来た
胸に舞踏の終らぬうちに
もうまた秋が、おじゃったおじゃった。
-中原中也「秋の愁嘆」より-
琺瑯、難しい漢字ですが「ほうろう」と読みます。「ホーロー」と表記する方が一般的でしょうか。
ホーローとは。
鉄、アルミニウムなどの金属材料表面にシリカ(二酸化ケイ素)を主成分とするガラス質の釉薬を高温で焼き付けたもの。
「琺」は釉薬、「瑯」は金属や玉が触れ合う音、また美しい石の意。
紀元前1425年ごろに製作されたと推測される世界最古の琺瑯製品とおぼしき加工品がミコノス島で発見されている。
また、ツタンカーメンの黄金のマスクの表面には琺瑯加工が施されている。
(Wikipediaより)
中也の詩もこのホーローの、冷たく艶のある質感をイメージしたものでしょう。(山口県内の小学校ではいまだに、中原中也派と金子みすゞ派と種田山頭火派が覇権を争っているのでしょうか?)
とても歴史の長い、(金属材料由来の)機械的耐久性と(ガラス質由来の)化学的耐久性をあわせ持つ優れた素材です。
ただ、我が家にもル・クルーゼと野田琺瑯の鍋が一つずつありますが、重いし電子レンジでは使えないし意外に傷には気をつかうし、である意味趣味性の高い素材と言えるかもしれません。
この「趣味性の高い」ホーロー、実は酒蔵では大量に見かける素材です。
一つはいわゆるホーロー看板。ある年代以上の方でしたら「オロナミンCのアレ」「ボンカレーのアレ」と言えば何となく通じるのではないでしょうか。
昭和レトロな雰囲気が好まれるのか、ヤフオク!やメルカリでも大量に出品されています。
吉川醸造のホーロー看板が、蔵の清掃をしたら出てきました。
表面のしっとりしたツヤ感、微妙に浮いてきている錆もいい味わいです。
実際にはシリカが焼き付けられているのではなく、光沢のある塗装というくらいの意味合いでホーロー看板と総称されているのではないかと思います。
+ + + + +
そして何といっても仕込みや貯蔵のためのタンク群。吉川醸造の蔵内にあるタンクはそのほとんどがホーロー製です。
表側は金属に塗装なので部分的に剥がれや錆が浮いていたりしますが、内に入ると白や青の、ガラス質のそれはつややかでシミひとつない空間で、角の線がないので方向感と距離感を失います。ちょっとした宇宙遊泳感。
エヌ常務。以前インスタにあげた画像です。
タンクの中から見た景色。
ホーロータンクは蔵の象徴と言えましょう。
これらのホーロータンクは温度調整機能が付いていません。いわゆる常温タンクです。
現代の日本酒造りは「冷やす」ことから始まると言っても過言ではありません。これまでも、井戸水が循環する「ジャケット」をタンクに着せたりと温度を下げる工夫をしていたのですが、それでも水温(16~19℃)以下には下げられません。
ジャケットを着せたタンク。
吉川醸造の場合は低精白のお酒を造りますので、発酵の速度をコントロールするためには仕込みの温度を極端に下げる必要がありますから、それ専用のタンクが必要になります。
ステンレス製のクーリングタンク。低いものでは3.5℃という非常識な温度まで下げます。
蔵内が手狭になったので、使わなくなったホーロータンクを今はヤードに置かざるを得ません。
蔵内から運び出すのも一苦労です。通路いっぱいいっぱい。
何かに使えないかアイデア募集中ですので、宜しくお願いいたします。
一夏でこんな状態。草を刈らないとなーと言ったら
エヌ常務が「ラピュタのロボット兵みたい」とつぶやきました。確かに溢れ出る「オーパーツ」感。
身長344cm、体重238kgだそうです(スタジオジブリより)。
空っぽのタンクでも500キロはあるのでちょっと軽すぎる気はしますが。少なくともホーロー製ではなさそうです。
+ + + + +
気付いたら、頭エヌと杜氏兄が草刈りをしてくれていました。
ホーロータンクを積み上げて、巨大なロボット兵を作りますか。
GN
「ホーロー」を連呼。好きなんですねえ。新譜も期待。
The House of Love - Hollow