放冷ダイナミクス

最近のこのブログでは、折々のトピックを挟みつつも、日本酒造りの工程を順を追って取り上げていることにお気づきでしょうか(まるで蔵元のブログのようです)。


というわけで今日は蒸した米の「放冷」について。


甑(こしき)で蒸した米は、麹造り用、酒母造り用、掛米(もろみの仕込み)用に分けて、それぞれの使用目的に応じた温度にまで冷まします。その後の工程を考えても大変重要な作業です。蒸し米蒸米


「簡易放冷機」の上に蒸した米をならして敷きます
側面に送風ファンが付いています。

 
そして以下が坂井機械製作所の「放冷機(KB-600A)」
原理的には簡易放冷機と同じです。蒸米を投入口から入れてクラッシャー(ステンレスのトゲトゲ)でほぐしてコンベアの上を移動させ、その間に米の熱をファンで吸引、排出して冷やす仕組みです。


米がダイナミックに機械の中を舞う様は、まるでダンスをしているようです。

坂井機械製作所HPより。吉川のものとは仕様が異なります。

 

 

見つめ合う放冷機たち。

写真を見て、ちょっと動物っぽい、と思った方はいらっしゃいませんか。ピカピカのステンレス製で耳も垂れているように見えるので、本物の動物というよりは「ロボット犬」といったところなのですが、いかがでしょう。

そうねロボット犬っぽいね、と納得して頂かないと話が進まないので、ここは黙って納得していただけると幸いです。

奇遇ですね。私もロボット犬のようだと思いました。

ロボット犬といえば、昔からウォッチしているボストン・ダイナミクス社(Boston Dynamics)のロボット犬「SPOT」(SPOTというのは英語圏でのベタな犬の名前)です。色が黄色という以外は放冷機とだいたい同じです。spot

ペッパー君と一緒に福岡ソフトバンクホークスの応援をしている映像をご覧になった方も多いのではないでしょうか。

PacificLeagueTV

 

コロナ禍の無観客試合を何とか盛り上げようという意図でしょうし、個人的にもSPOTがたくさん見られて嬉しかったのですが、世間では「これはキモイ」「ディストピア」と感じた方もいらしたようです。

 

数年前のクリスマスシーズンにはボストン・ダイナミクス社から、トナカイに扮した?スポットの公式動画が公開されましたが、こんなに微笑ましい動画でも、見る方によっては名状しがたい薄気味悪さを感じたようです。

Boston Dynamics

 

「年末感を出そうと思ったら終末感が出ちゃった」理由について私なりの分析ですが、まず兵器利用される可能性への懸念、忌避感はあると思います。
しかしそれ以上に動きがリアル「過ぎ」ているのが大きな理由ではないでしょうか。

実存の四足歩行の動物っぽさが増すほど「キモイ」という生理的・感情的反応が起こる、つまり「不気味の谷」現象(動物バージョン)で説明がつきます。さらにリアルな動きにも関わらず首から上が付いてない(標準装備の場合)というアンバランスさがそれにより一層拍車をかけています。

 

+++++

 


唐突ですが、ダンスの世界では「アイソレーション(Isolation)、アイソレ」という言葉がよく出てきます。「分離」や「独立」などの意味で、体の各部分を独立させて別々に(連動させずに)動かすことです。
特にロボットダンス系ではアイソレができていないとサマになりませんね。ならないらしいです。

伝説的ダンサーであるマーキューズ・スコット。アイソレーションが完璧なので、非常に「ロボットっぽく」見えるところがあります。YouTubeで1億回以上再生されたダンス動画のリメイクが最近アップされましたのでご覧ください。

PUMPED UP KICKS|DUBSTEP|REMAKE|

ボストン・ダイナミクス社が目指しているのはまさにこの逆で、「ある部分が動いたら別の部分も連動させる」ことで「ロボットっぽくない」「動物っぽい」ロボットを実現させようとしているのではないでしょうか。

ボディの各部位を「分離」でなく「連動」させて全体の動きを構築しようとしているはずで、実務に求められる運動性能よりも「動物っぽく」見えることを優先している節すらあります。
メイキング映像を見ればわかりますが、機械で「動物っぽさ」を表現する難しさは想像を絶するはずなのに。  

SPOTはオンライン直販サイトから購入できます(アメリカ国内のみ)。

実はSPOTと放冷機(KB-600A)の価格は競合的で、見た目もほとんど同じなのでクリスマスにどちらを買うか悩んでいる方もいらっしゃることでしょう(残念ながらどちらもクリスマスセールはやっていないようです)。
そこでご参考までに、この競合2機種の比較表を作成してみました!
一進一退の攻防で、勝負がなかなかつきません。


+++++

 

...こういうのを「詭弁」と言います。「誤った二分法」と「論点先取」という詭弁を組み合わせたハイブリッド詭弁です。大変失礼いたしました。

 

話を無理やり放冷機に戻すと、放冷機まわりを清掃する蔵人が、クリスマスの出発を待つトナカイの世話をするサンタのように見えなくもありませんね。


そうねサンタのようね、とここはクリスマスプレゼントのつもりで納得していただけると幸いです。放冷機

 

GN

 

 

 Chilly(冷え冷えの) Gonzales。「ソロ・ピアノ」は名盤です。

Chilly Gonzales - White Christmas