小田急線の車窓から外をぼんやりと眺めていると、黄金色に輝く水田の中に人影が見えました。
不穏(ふおん)なキープ・ディスタンスに胸騒ぎを覚えます。
調べてみるとそれは(理想の酒米を求めて漂う蔵人たちの霊ではなく)「かかしまつり」のイベントでした。今年も新型コロナウイルスの影響で規模を縮小して行われているようです。
中新田かかしまつり
そういえば最近、生でカカシを見ていなかったと思いました。
カカシ(案山子)とは、、、
大国主の国づくりの説話に登場する「久延毘古」(クエビコ)は、かかしが神格化されたものであるが、これもまた田の神(農耕神)であり、地神である。かかしはその形状から神の依代とされ、地方によっては山の神信仰と結びつき、収獲祭や小正月行事のおりに「かかしあげ」の祭礼をともなうことがある。また、かかしそのものを「田の神」と呼称する地域もある。なお、かかしは「かがし」を原義とする言葉と考えられ、これは稲作に害をおよぼす鳥獣が嫌悪する臭いをかがせ、それによって鳥獣を追い払う目的でつくられたという。 (wikipediaより)
近頃の鳥獣害防止策としては電流を流す防護柵などが主流なのでしょう、元々は「田の神」であったらしいカカシは活躍の場を失ってしまったのかもしれません。
わたしたちの現場を支えるネットストア「モノタロウ」にも、いわゆるカカシらしいカカシは「かかしくん」他数えるほどしかありません。
かかしくん(税込747円)。4本の赤銀テープでキラキラ威嚇効果アップ。
しかし近年ではピエロなどと同様、カカシは「怖い」「不穏」な存在になってしまったかもしれません。
本来愉快なおどけキャラに対して極めて深刻な恐怖感を覚える心理は「ピエロ症候群」と名付けられていますが、特にアメリカで「ピエロ=怖い」と感じる人がとても増えているようで、俳優のジョニー・デップもこの恐怖症の克服のために、敢えてピエロの人形を自分の部屋に飾っているのだそうです。別の克服法を考えた方がいいんじゃないか。
映画「IT」とか「ジョーカー」の影響も大きいかもしれませんね。
映画でいうと、カカシもホラー映画の世界では意外にメジャーな存在で、悪霊の乗り移ったカカシが人々を殺(や)りまくる、カカシ系ホラーと呼ばれるジャンルがあります。最近ではギレルモ・デル・トロ監督の『スケアリーストーリーズ 怖い本』や、少し前ではジェフ・バー監督の『ザ・スケアクロウ」などがそれにあたります。
『スケアリーストーリーズ 怖い本』の「カカシのハロルド」。怖いです。
ホラーではありませんが伊坂幸太郎のデビュー作「オーデュボンの祈り」には人語を操り「未来が見える」カカシが出てきます(大好きな「特殊設定ミステリ」の一冊です)。
「朴訥とした風情」「その反面の不穏な感じ」の落差がカカシに豊かなイメージ喚起力をもたらしているということでしょうか。
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CNN.co.jpの記事より。
夜の水田に浮かび上がる不気味な顔の正体
これは怖い。夜にふと目が合ったら変な声が出そうです。のどかな田園風景が一転、背筋も凍る惨劇の舞台へ。
余談ですがこの記事によれば、
美容師さんがカットの練習用に使用するマネキンの髪は頭部に直接植え付けられているため、一度髪を切ってしまうと、その頭部は用済みとなる。
んだそうです。これはいいことを聞きましたよ。いつか使える豆知識です。
また、
東京大学国際農業開発学コースの岡田謙介教授は、かかしは「鳥から農作物を守る上で効果がないことが分かっているし、日本で今広く利用されているわけでもない」と指摘する。
とあります。その存在を全否定された「かかしくん(税込747円)」に悪霊が乗り移ってしまわないか、心配です。
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「かかしまつり」も夜行ったら不穏な感じバリバリで楽しいのかな?と思い、深夜蔵からの帰りに寄ってみました。
観客は当然私一人です。
CNNの記事のように、非日常感あふれるオドロオドロしい写真が撮れないかと期待したのですが、そうは行きませんでした。
このへんはまあまあ怖いのですが(そういう意図でなかったらごめんなさい)、、、
カカシの多くは地元小学校の児童の皆さんが製作されたもので、看板に「何々小学校の何年何組何班」と誇らしげに書かれています。
子供たちが先生やクラスメイトと一生懸命作っている姿が目に浮かび、思わず微笑んでしまいました。米(まい)みょんですって。可愛いですね。
深夜の水田でカカシを見つめて微笑んでいる中年男性こそが、非日常感あふれる不穏な存在であることに気付いたのは、それから少したってからのことでした。
GN
「不穏」で思い出すのがこのインドネシアのガムランガバユニット。2:35あたりから特に不穏。
Gabber Modus Operandi - Dosa Besar