雨降の地で

Where The Rain Falls

丹沢大山。

麓が晴れていても山頂は霧や霞で覆われることの多い不思議な山です。古来より雨降山(あふりやま)と呼ばれ、それが転じた大山阿夫利(あふり)神社とともに、雨乞い信仰の場として知られてきました。

山頂に降りしきる雨の雫は地中に沁み込み、長い年月をかけて濾過されながら、麓までゆっくりと流れて、そしてお酒に。

「雨降///あふり」はこの地だからこそ、誕生したお酒なのです。

大山阿夫利神社は酒解(さけどけ)神という酒造の神を祀っています。「雨降」の文字はその神官に、水とお酒に対する感謝の想いを込めて揮毫していただいたものです。

「水は授かりもの」

Water is a Blessing

伊勢原市神戸(ごうど)の地に築蔵して百余年。世の中が移ろい、周囲の風景が変わっても、変わらないのが霊峰大山とここに降る慈雨。

吉川醸造では、洗米から仕込み水まで全て、井戸から豊富に湧き出る良質な水を利用しています。流通の発展により、酒造りにおいて最高の米は全国から取り寄せることができるようになりましたが、こと水に限ってはそのようなことが出来ません。

日本酒を造るのに必要な水はお米の質量の約50倍とも言われるのがその所以。酒造りの世界で「水は授かりもの」と言われるのは、まさにこのためです。

硬水で醸す、凛とした酒

Water Makes Sake Dignified

「硬水」とは、マグネシウムやカルシウム等のミネラルを多く含む水のことです。吉川醸造の水は、日本では希少な硬度150~160の硬水(弱アルカリ性)。水がいかに長い年月をかけて山麓の地中を下る過程で磨かれてきたかを示すものです。

こんにち日本酒造りには軟水が向くというのが定説ですが、然にあらず。硬水は酵母の発酵を促し、低温下でも醸すことができるため、すっきり端正な、陰影の濃い酒質に仕上がるのです。

こんにち、吉川醸造のお酒は特に海外で"Minerality”の高いお酒として高く評価されています。

吉川醸造の挑戦

Our Challenge

例えば、「削らない」製法への挑戦。
日本酒をつくるとき、通常は酒米を相当量削ります。玄米を外側から削り、残った割合を%で示したのが「精米歩合」。吟醸規格だと精米歩合60%以下、大吟醸規格だと50%以下でなければなりません。

お米を削った方が軽い酒質となり吟醸香も出やすいと言われますので「精米歩合が低いほど高級なお酒」という通念が広まっているのも無理からぬことでしょう。
これは、お米の外殻にアミノ酸やタンパク質など、お酒に雑味を生じさせやすい成分が多く含まれており、この部分を予め除くことできれいな酒質を実現しやすいためです。

しかし吉川醸造では敢えて「削らないお酒」(精米歩合90%)にも力を入れています。お米の全ての要素を引き出したお酒を造りたい、造れるはずという思いからです。
今日もさまざまな試行錯誤を繰り返しながら、この雑味を誰も飲んだことがない美味に昇華させることに挑戦しています。