リベンジ:能

「大山阿夫利神社 火祭薪能」に行ってきました。大山阿夫利神社 火祭
昨年も訪れたのですが、恥ずかしながらそれが初めての能体験で、話の筋も言葉も一言たりともわからず悔しい思いをしたので今回はそのリベンジ(念のため、「revenge」は「復讐」「恨み」「報復」なので、「再チャレンジ」や「再挑戦」の意味で使うのは誤用)です。大山阿夫利神社 火祭 薪能

能楽殿(清岳殿)の後背には大山阿夫利神社の社務局、そして山の緑がそれらを取り囲むという絶好のロケーションです。
コロナで席数を減らしていますが本来は1200席設けるのだそうです。二十六世観世宗家の観世清和さんや、狂言では人間国宝の山本東次郎さんが出演するので、関東一円から観客が集まります。今日の部は発売してすぐ満席となったようです。
 
さて、能の鑑賞リベンジ(誤用)にあたり、今年は以下のような対策を立てました。
・観世清和さんの著書を読みました。
・曲の筋書きはあらかじめネットで読んで頭に入れました。
・セリフの現代語訳と英語訳(現代語訳でも意味が分からない言葉があるので)を手元に忍ばせました。神は細部に宿る。
・座布団を借り出しました(客席は座面硬めのパイプ椅子なので、昨年は尻が痛くて途中から能どころではなくなった)。


素晴らしい。明日からは履歴書の趣味の欄に「能」と書きましょう。大山阿夫利神社 能
 

特殊神事の「弓矢鉾」(だったと思います)。隣で神火が燃える音がします。大山阿夫利神社 火祭

 

神楽舞。
このサイトのドローン映像を撮影された目黒権禰宜も舞っています。神楽舞 大山阿夫利神社

+ + + + + + + + 

 

 

ここから先は撮影禁止です。携帯を仕舞います。

建物の中の能楽堂と違い、周囲の環境が舞台と混然一体となる様が感動的です。
天候が悪くなる直前だったようで、風がごうごうと吹き渡る音、木々の葉がざわざわと擦れる音、かがり火がパチパチとはぜる音、小さく遠雷の音も聞こえながら、物語が進行します。


演目は「通小町 雨夜之伝」。深刻な愛の物語です。


京都・八瀬(やせ)の山里で一夏の修行[夏安居(げあんご)。九十日間籠もる座禅行]を送る僧のもとに、木の実や薪を毎日届ける女がいました。僧が、問答の末に名を尋ねると、女は、絶世の美女、才媛であった小野小町(おののこまち)の化身であることをほのめかし、姿を消しました。

市原野に赴いた僧が、小町を弔っていると、その亡霊が現れ、僧からの受戒を望みます。そこに、背後から近づく男の影がありました。それは小町に想いを寄せた深草の少将の怨霊でした。執心に囚われた少将は、小町の着物の袂にすがり、受戒を妨げようとします。

僧はふたりに、百夜(ももよ)通いの様子を語るよう促します。少将からの求愛に、小町は、百夜通って、牛車の台で夜を過ごせば恋を受け入れると無理難題を出します。少将はどんな闇夜も雨、雪の夜も休まず、律儀に歩いて小町のもとへ通いました。そのありさまを再現します。

百夜目。満願成就の間際、まさに契りの盃を交わす時、少将は飲酒が仏の戒めであったことを悟り、両人ともに仏縁を得て、救われるのでした。  (the 能.comより引用)

 

能面は角度によって表情を豊かに変えていきます。さらにかがり火が当たってゆらゆらと揺らめくのです。

写真がないので能面のgifでもどうぞ。"Beyond Noh" by Patrick Smith.能面

終わりました。すっかり夜もふけて。
大山阿夫利神社 能楽

帰り際、目黒権禰宜としばし立ち話しました。
目黒権禰宜、この場所での神楽舞は16年振りだったそうですが、常に死んでもやり遂げるという気持ちで舞うとのこと。

観世清和さんの著書に書いてあったことを思い出しました。
能の舞台には二人、「後見(こうけん)」と呼ばれる役割の人が舞台左奥に座っています。通常はじっとしていてシテ(主役)が手から離した小道具を片付けたりするだけなので、いわゆる「黒子」のようにも見えます。
しかし実はこの後見、その曲を無事終わらせるための総監督であり、万一シテが倒れるようなことがあれば即座に(何事もなかったかのように)シテと入れ替わり、その代役を最後まで務めるのだそうです。

 

通常の舞台なら、もしもの時には舞台監督が緞帳を下ろしておしまいでしょう。なぜ能はそこまでして最後までやるのかというと、能がもともとは神を招き、神に見ていただく舞から始まったことに由来します。

「能はいったん始められた以上、必ず舞い納めなければならない。途中でやめてしまったら、そこで始まった神や霊との対話は中断し、失われてしまうからだそうです。

 

その覚悟と決意。
日本酒も古来から神に捧げる神聖なものだと伝えられてきたのです。末席を汚す自分にもその覚悟があるだろうか?などと柄にもなく考えながら会場をあとにしました。大山阿夫利神社 能楽殿


ところで、せっかく持って行ったセリフの現代語訳ですが、「夜の屋外は暗い」という自然の摂理を忘れていたので、老眼と鳥目の眼には一文字も読めませんでした。


また来年リベンジ(誤用)します。大山阿夫利神社

 

 

 GN

 

 

 It's a 能面。

The Prodigy - Omen