くみあげる水がふかい秋となつてきた

・くみあげる水がふかい秋となつてきた(種田山頭火)

酒米の表面の糠(ぬか)や汚れを井戸から汲み上げた水で洗い落とします。
そのままですが「洗米(せんまい)」と呼ばれる工程です。

洗米の目的は「米粒表面に付着している米糠を除き、蒸米のさばけをよくするため」「米粒がすれ合って表面が若干削られる精米効果も見られ、第二の精米ともいわれる」(日本醸造協会:清酒製造技術より)。洗米機

吉川醸造の洗米機は高速ジェット水流(時速70km/h)と気泡で行うものです。気泡の含まれる水流なので米を痛めずに「研ぐ」ことができ、同時にサイクロン効果で糠や汚れ分を微細な泡で包みながら米から引きはがし、再付着しないように洗えるという優れもの。

洗うときも水分を吸い過ぎないよう、時間を厳密にコントロールし、次の行程(浸漬、蒸し米)へと進んで行きます。洗米 酒蔵

水はしぶきをあげ、米が踊りながら流れて行きます。洗米 日本酒

同じ山頭火の句

・水はあふれ魚は泳ぐ

ならぬ、「水はあふれ米は泳ぐ」といった風情です。

種田山頭火。
山口県生まれの人間にとって、中原中也、金子みすゞ、そしてこの種田山頭火の詩や俳句には幼い頃から触れる機会が多々あります。山頭火もいわゆる「郷土の偉人」的存在なのですが、一般的には「漂泊の俳人」のイメージが強いでしょうか。

・分け入つても分け入つても青い山

・うしろ姿のしぐれてゆくか

などが、自由律俳句(じゆうりつはいく)の傑作として知られています。

先ほど挙げたものだけでなく、やたら「水」の句が多い山頭火ですが、「水のみ俳人」とも呼ばれるくらい、各地の水を飲んでは記録する、利き水の名人でもあったようです。

広島国際学院大学の佐々木健教授の研究によれば、山頭火が「水」について記述した場所を調べてみると、含有するカルシウムやマグネシウムの少ない「超軟水」の地が多かったそうです。
硬水(150mg/l)である吉川醸造では残念ながら句を詠んでくれなかったかもしれません。

山頭火は酒造業(種田酒造。跡地が現在の金光酒造様)をやっていたこともあり個人的な親近感は沸きますが、これまた残念なことに酒へのアプローチがまるで異なります。

いわく、泥酔への過程は「まず、ほろほろ、それから、ふらふら、そして、ぐでぐで、ごろごろ、ぼろぼろ、どろどろ」だそうですが、最初の「ほろほろ」の段階で既に3合ですって。常人にはとてもついていけません。

酒と俳句については「肉体に酒、心に句、酒は肉体の句で、句は心の酒だ」と語っています。これも面白い言い回しです。
山頭火の、酒に関するエピソードには事欠きませんので、おいおいご紹介していきたいと思います。

+++++ 

山頭火には、現代で言うところのコピーライターあるいは警句家の一面を感じさせるところがあります。自由律俳句自体が季語にとらわれず語感やリズムを大切にする芸術という側面もありますので、自然と言えば自然な話ですが。

・動くものは美しい。水を見よ。雲を見よ。

・人生の矛盾を矛盾として慈しみ育てよ。

・主観の燃焼があって、そして後に客観の透徹があり得る。

など、今読んでもいいなあと思うのですが、最近岩波文庫版の句集を読み直してはっとしたのは

・こころ疲れて山が海が美しすぎる


幼少期に母親の自死を目撃して以来、人生の奔流に呑まれ続けた山頭火。心身ともに疲れ果てたその目に映ったのは山や海の美しさだった、、と読み解かれています。

「美しすぎる●●」が流行り言葉のようになって久しいですが、俳人が選ぶ語としては拍子抜けするほどに朴訥で直截的な表現ではないでしょうか。
「山が」「海が」と誰の心にもあるであろう心象風景を持つ語をリズムよく重ねたあとで「美しすぎる」と放り投げるように置かれると、その人生を多少なりとも知る人間にとっては胸を衝かれたように感じました。

私たちも「美しすぎる日本酒」を造っていきたいと思います。心は疲れないようにして。


GN


などとたまにはしっとり終わらせよっかな?と思いましたが、、、
★美しすぎる水の形1。London Royal College of Artの学生(当時)による蛇口のデザインですが、商品化されたのでしょうか?(引用元美しすぎる水
15%の節水にもなるそうです。


★美しすぎる水の形2

下の動画では1:20あたりから、バスドラの音に合わせてホースから出る水が変形して止まっているように見えます。実際に肉眼でこのように見えるわけではなく、動画のフレームレート(1秒間でのコマ数)と音の周波数とを一致させているために、動画では水がまるで空中で止まっているように見えるのです(たぶん、、、そのはずです)。

この動画を調べてみるとフレームレートが25fpsでした(見慣れないフレームレートだな?と思ったら、ヨーロッパでの放送規格のようです)。
ですからバスドラの音声を調整して25Hzの音をスピーカーから流していると想像できます。
同様に1:38あたりから、水がホースに逆流しているように見えるのは、それより低い周波数(24Hzとか23Hz)の音を流しているので(あくまで動画上で)そう見えるのです。

Nigel Stanford - CYMATICS: Science Vs. Music