酒母の日

日本やアメリカ、オーストラリアでは明日(5月の第2日曜日)が母の日です。

日本酒で「母」と言えば酒母(しゅぼ)酵母が思い浮かびます。
酒母とは、米麹と蒸し米と仕込み水をタンクに入れて混ぜ合わせたもので、簡単に言うと「清酒酵母を大量に培養するためのもの」です。
この「日本酒のスターター」である「酒母」を、何段階かにわけてのばして出来上がったものが日本酒です(超雑)。

酵母については、清酒酵母だけでなく、パン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、、と幅広くあるせいか、「酵母の日」が存在します。4月15日(よい酵母の日)、11月5日(いい酵母の日)です。
わざわざ2日に分かれているところに不穏な何かを感じるのは私だけでしょうか。全日本酵母協会と新日本酵母連盟の分裂騒ぎとか。。。

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いきなり余談になりますが、少なくとも日本酒の世界において「酵母」という訳語は酒造の立場からすると少々すっきりしないと思っていました。酒母のなかで育つものなら、酵「母」じゃない方がよかったのではなかろうかと。

「酵母」はyeast(イースト。ギリシア語のzestos(沸騰の意)が語源といわれる。アルコール発酵が見た目沸騰と同様の現象を呈することから)の訳語で、明治30年代に概ね定まったと言われます。
それまでは「醗酷」「サッカロミセス・セ レウヰシェー(学名)」、「酒母菌」「醸母菌」「醸母」と様々な訳語があてられていました。
(きょうかい酵母HP 『「酵母」という名前の由来』より。サイト

「酵母」の形状のかわいらしさ(鶏の卵からヒヨコが首を出したところを想像して、それを1/10,000に縮小してください。そんな感じ)もあわせて表現するにはどうしましょう。「酒母」に対して「酒子(さけのこ)」あたりでいかがでしょうか。

余談の中でさらに余談になりますが(映画「インセプション」の入れ子構造のように)、このブログでは語源がどうの、という機会が多いような気がします。昔微分積分を習うときに、「積分はともかく、微分という訳語は意味がわかりづらい。数学嫌いを増やしている一因と思われるので、割分とか英語のdifferentialから差的という言葉を文部省に提唱しましょうよ~」などと議論(今となっては現実逃避あるいは時間稼ぎ)を吹っ掛ける、嫌な子供だったことを最近思い出しました。先生ごめんなさい。

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もう話を戻しますね。あなたのブログは余談が多い(余談しかない)、とよく言われるのが心外ですので。

さて、「酒母」「酵母」いずれも全国の蔵元さんによる、詳細にわたる素晴らしい解説がネット上に既にたくさんありますので、ここでは説明を省略します(やっぱり余談しかないじゃないか。。。)

暖気樽(だきだる)を持つ蔵人。暖気樽とは中に湯を入れてタンクの中に漬けて酵母の成長を促すもの。重い。

 

私には「南部美人」さんのページがわかりやすかったです(「南部美人 酒母」で検索してください)。
説明のなかで「酒母はお母さんのおなかの中、酵母は赤ちゃん」とあり、やっぱり「酵母」じゃなく「さけのこ」のがよかったよな、、との思いを新たにします。


お客様の目線では、酒母という語を見かけることはあまりないと思いますので、分類だけざっくりと。ちなみに「酒母=酛」です。

日本酒のラベルに「山廃仕込み」とか「生酛造り」とか「水酛」「菩提酛」などと書いてあるのをご覧になったことはないでしょうか?これはいずれも酒母のつくり方の違いとお考え下さい。これらが書いていない場合(90%くらい)は「速醸系」と呼ばれる造り方になります。

吉川醸造のお酒は基本的には速醸系(普通速醸)で、一部に山廃仕込みもあります。
きのう水野杜氏に「今週のブログは酒母にしてみようかと」と言ったところ、凄い速度でそれぞれの特徴や手順をメモにしてくれたので以下そのまま載せます。唎酒師Tが「Gさんの手抜きだ」と言いそうですが、やめなさいね。

まず速醸酒母(速醸酛)。速醸もさらに3種ほどに分類できますが、吉川醸造では普通速醸を採用しています。時間は中温速醸や高温速醸よりも掛かりますが、雑味がなくきれいな酒質に仕上がるためです。

普通速醸でもできあがるまでに14日掛かるのですが、吉川醸造では一部のお酒に杉山晋朔博士の提唱した速醸酒母の造り方を採用しています。(菊勇「杉山流」、雨降「成NARI」など)
これだと酒母の完成までに25日程度と、通常の普通速醸と比較して倍近く時間がかかるので大変ですが、アルコール耐性のある強い酵母が残るので、アルコール度数を高めながらじっくりと味と香りを引き出すことができるのです。

最後は山廃酛。生酛と同様、乳酸を添加しません。

スターターだけでこれだけ時間が掛かるということ、なおかつ実際にはそれぞれの細項目で繊細な作業が必要になります。日本酒づくりってとっても奥が深いんですね!と酒蔵のブログ風にまとめてみました。

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母の日で色々考える機会になったので、吉川醸造では5月9日を「酒母の日」と勝手に制定することにしました。「ごく(59)幸せな酒母の日」。
日にちの語呂が"酒母"に全く掛かっていないというのが玉にキズです。


GN


母の日ソングは山ほどあるのですが、様々な母子の形があるということでエミネムの自叙伝的なこの曲を選んでみました。最後の方で「母の日カード」が母親によって放り捨てられるのも悲哀が漂います。

Eminem - Cleanin' Out My Closet