ちょっと前ですが、アメリカのインポーターのPaulさんと話していて、印象的だったことがあります。
G「我問ウ、アナタガ日本酒ニ求メルモットモ重要ナ要素ハ何デアルカト。」
P「Complexity.」
まさにワン・ワードでした。
日本語で「複雑さ」という表現が飲食物に対して使われる機会はそれほど多くないのでよく覚えているのですが、考えてみると「雨降」にはそういう指向性があるだろうな、とも思いました。
もともと仕込み水はカルシウムやマグネシウムを多く含む硬水ですから、軟水のようにすっきり綺麗というわけにはいきません。さらに精米歩合90%のお酒を好んで造っていますが、これは米の外殻にあるアミノ酸やタンパク質を多く含んでいるので、「雑」味の原因にもなり得ます。好ましい複雑さをどう実現するかが重要だと考えておりますが。
予測できない「複雑さ」は文字通りのカオス状態に陥ってしまうので、再現性の必要な企業としては好ましくない。
ある種予測可能でコントローラブルな「複雑さ」として、一昔前に流行したフラクタル(マンデルブロが提唱した「自己相似性」という特殊な性質を有する幾何学的構造のこと)を参照すべきではないかと。
というのも先日、香港巡業をして来た際に、高層ビル街を歩いていてその「複雑さ」が人間の感覚に及ぼす影響について考えていたからです。
以下の超高層マンションの平面図は現地の三宝不動産様のHPの実際の物件より引用させていただきました。
明らかに日本のタワマンの平面形状とは異なります。図中ぽちぽちと出っ張ってA/Cと書いてあるのがエアコンの室外機置場ですね。
日本であれば、1戸1戸をパズルのように組み合わせて、全体の平面形状としては長方形、せいぜいL字かコの字型にするところです。
これは、外装面積を減らして建設コストダウンを図ること(日本でこのような平面図をノコノコ持って行ったら設計者はクビでしょう)や、外気に接する面積を最小限にして熱負荷を減少させる等に大きな動機があるのですが、それにも増して、街並みに対してすっきりと見せたいというデベロッパーや設計者の思いが相当に強いのです。
エアコンの室外機が剥き出しの高層ビル群を見ながら、メンテが大変だろうな、、、という即物的な感想を持ったのですが、それ以上に何だか不思議と心が落ち着くような感覚も覚えました。
なぜだろうと考えたときに、これらのビルはツルリとした建物にはないフラクタルな要素を持っており、出隅入隅が多いことや室外機を設置するフレームなどの影響で、全体に陰影が深く、外装だけで奥行感を覚えます。
同時に建物の輪郭を和らげる効果もあり、ビルが建て並ぶさまはどことなく「森」のように見えます。
私という動物の本能として、隠れ家となる森の要素を見出して平穏を感じるというのは自然なことかもしれないと考えた次第です。
(屋上に人がいますね)
+ + + + +
フラクタルの旅。近づけば近づくほど、さらに小さな街が見えてきて、いつまでもたどり着けないような。。。今度から、「雨降」は複雑な味ですという代わりに「フラクタル次元の高い味わいです」と説明しようかと思います。
Recurrence by Julius Horsthuis
(注)フラクタル図形として有名なのは以下のようなものです。gifがイメージをつかみやすいです。(全てWikimedia Commonsより引用)
●マンデルブロ集合
●シェルピンスキーのギャスケット
●メンガーのスポンジ
最後に香港の観光名所(ドローン撮影禁止)である「モンスターマンション」で撮った写真を。ここまでくると圧倒されます。
GN
Weval - Someday