紅白疑ってん

駄洒落タイトルはやめると言ってましたっけ。。。

先だって発売した吉川醸造の「かすみさけ」、赤(桃色)と白で展開しました。二つ並べると「紅白で大変めでたい感じ」と皆様おっしゃいまして、たいへんありがたいことです。

「紅白」と来たら「うたがっ…」と連想する程度には保守的な日本人なので、今回は「紅白のめでたさ」について疑ってみることにしました。

何回か続けて色をテーマにしているような気もしますが、たぶん気のせいだと思います。

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日本で「紅白がめでたい」理由については、いくつかの説があります。

いわく「花嫁衣裳(色打掛)」が紅白だったから。縁起がよいと言われた梅が紅白だったから。赤は赤ちゃん、白は死や別れを意味して人の一生を表すから。めでたいときに炊かれる赤飯と白餅の対比から。。

しかしながら、これらは因果関係が逆じゃないのだろうかと首をかしげてしまうのです。

むしろ紅白にまつわる「何かしらめでたいこと」が起こったので、めでたいことの再現を願って紅白を寿ぐことになっていった、、、という理路の方が自然ではないでしょうか。

ちなみに、中国の方は上記の花嫁衣裳に違和感を持つそうです。赤(紅)はともかく、白は決して縁起の良い色ではないためです。

紅白なら何でもいいというわけではありません。紅と白のコンビネーションを考えると、日本人としてはやはり紅白幕のような紅と白の縦じまがおめでたいと感じます。

横じまであったり赤丸であったりすると(紅は太陽を示すという説もあるので赤丸であってもおかしくないのですが、草間彌生感がぬぐえません)途端に違和感が出てきます。

そもそも紅白がめでたいもの、と言われるのは日本だけだそうで、紅白幕が「めでたいこと」を象徴する道具立てとなるにはやはりそれなりの理由があったはずです。

取材班はこの謎を解明すべく、ネットカフェに向かいました。 

ー1時間経過ー

取材班はついに、仮説を立てるためのあっと驚く文献を発見しました。いや取材班ではなく、国立極地研究所等の研究グループが発見したのでした。

以下は日本でオーロラ、それも赤白のオーロラが観測されたことを示す、世界的にも貴重な記録です。鎌倉時代の歌人・藤原定家の日記『明月記』に記録された、「赤気」(オーロラの意)の記録です。

国立極地研究所HP

『明月記』建仁四年正月十九日 天晴(中略)秉燭以後、北并艮方有赤気、其根ハ如月出方、色白明、其筋遙引、如焼亡遠光、白色四五所、赤筋三四筋、非雲、非雲間、星宿歟、光聊不陰之中、如此白光、赤光相交、奇而尚可奇、可恐々々

現代語訳: 1204年2月21日、晴れ。(中略)燭台に燈をともす頃(日が暮れてから)、北及び東北の方向に赤気が出た。その赤気の根元のほうは月が出たような形で、色は白く明るかった。その筋は遠くに続き、遠くの火事の光のようだった。白気(白いところ)が4、5箇所あり、赤い筋が3、4筋出た。それは雲ではなく、雲間の星座でもないようだ。光が少しも翳ることのないままに、このような白光と赤光とが入り交じっているのは、不思議な上にも不思議なことだ。恐るべきことである


『明月記』が記された1200年頃は地磁気の軸が今とは逆に日本のほうへ傾いており、日本からオーロラが観測しやすい時期であった(国立極地研究所)とのことですが、日本でのオーロラ観測は古い文献で他にも記されています。

高力種信著 「猿猴庵随観図会」 1778年頃 国立国会図書館蔵


かなり紅白幕の意匠に近いのではないでしょうか?日本では相当に珍しいからこそこのように絵図にも残されたと考えられますが、この、当時の人々にとっては禍々しいと言えなくもないオーロラがなぜ、「めでたい」意味を持つことになったのでしょうか。


私の仮説を以下に述べます。

オーロラは太陽活動が活発なときによく観測されます。太陽活動が活発なとき、人の世でどんなことが起こるか。

これについても面白い論文があります。「太陽活動と景気の相関について」のなかで、中村寿一郎氏はこう結論付けます。

太陽活動 90年周期のスパンで見た場合、活動の各ピークでは産業革命、 明治維新、神武景気等、世界的な経済活性期に符合、それぞれピークとピークの中間の活動の低迷期には今回の金融危機や世界経済恐慌など世界的な不況が見られます。

太陽活動が活発な年(オーロラの見えやすい年)は歴史的に「景気がよかった」年なのです。

飢餓や大凶作については、調べた範囲では例外なく、 11年周期の低迷期に見られます。

そういう年には飢餓も起こらず、農作物も「豊作」だったのではないか?と推測されます。



もうお分かりでしょう。

赤いオーロラが観測された年は景気がよく、農作物も豊作だったのです。

これを経験的に知った古人は、この赤いオーロラ(つまり吉兆)を模した「紅白幕」を飾り、景気の良さと作物の豊作を祈ったのではないでしょうか。


これが紅白、特に縦じまの紅白がおめでたいと言われるようになった理由です。

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うーん、それっぽい、、、ですか?

紅白幕の歴史は思ったよりも新しく、入学式や卒業式が一般的になった昭和初期に広まったという記事も見ましたが、見なかったことにします。

赤いオーロラはいつか見てみたいですね。

日本のような低緯度の国で見られるオーロラは赤い(低緯度オーロラ)のだそうです。次に低緯度オーロラが観測される可能性があるのは2026年前後とのことで、今から楽しみにしています。


GN


二人で紅白。

The White Stripes - Seven Nation Army